ヤマトよ永遠に
偵察局アザンティ・ハイ・ライトニング級巡洋艦ヤマトは、3日後に来る筈だったが、不測の事態が発生し、予定は大幅に繰り上げられた。
通信を受けたジョニーは真っ青な顔で凍り付いた。
「攻撃を受けた!?」
他のみんなも青ざめる。
みんなが固唾を呑む中で、いったん通信を終えたジョニーは深呼吸し、ポツポツと話し出した。
「ヤマトがジャンプアウト直後のコース設定中に、所属不明の飛行体に攻撃を受けた。まだ被害の詳細は不明だが、軌道修正とコース修正がほとんど出来ない状況だそうだ。敵はそのまま離脱したらしい。」
「あのヤマトが!?」
ドンキホーテ一行も信じられなかった。ルーから上昇したエアラフトから見たヤマトの威容は、少々のことではびくともしない不沈艦としか思えなかったのだ。
「もっと悪いことには、現在のヤマトがカラビールに向かうコースだということです。」
一瞬全員言葉を失う。
「なんでだ・・・まっすぐこっちに向かう予定じゃなかったんだろ?」
「ジャンプの目標地点はカラビールの100倍点だったんでしょう。その後コース変更前に攻撃されたので、そのままこっちに向かってしまったようです。」
「しかし・・・ジャンプアウト直後はほとんど静止状態だろ?なんでいきなりこっちに進んでるんだ?」
マルコの意見ももっともである。本来なら通常空間では、目的地との中間地点で最高速度に達する。そこで減速を開始し、ジャンプ開始地点では静止しているのが普通
なのだ。
「オキタ艦長は訓練だと言って加速状態のままジャンプインすることが度々あるらしいんです。彼は”最大戦速”と呼んでいるそうです。」
呆れる一行。話しているジョニーも居心地が悪そうだった。
「つまり・・・ヤマトは出発地の100倍点に達するまで加速していたと・・・」
マルコの声も震えていた。そんな速度であの巨船がカラビールに衝突したら、文化的交流どころかカラビール人が滅びかねない。
「いや、今回はそこまでではないようです。ただ静止状態では無かったようで・・・」
「結局ヤマトの速度はどのくらいなんだ?出発地点の規模から最高速度は分かるだろう。」
「残念ながら出発地点は知らされていません。パトロール艦の航路は極秘なんです。でも速度は分かっています。すでにステーションの探知機でヤマトを捕らえていますから。」
そうだった。ヤマトはとっくに探知範囲内。つまりすぐそこにいるのだ。
「ヤマトの速度からすると、カラビール衝突まであと4時間。 まだしも幸運だった方です。”最大戦速”だったらすでに衝突していますから。もちろんヤマトはもうスラスターは切っていますが、反転しないと減速は不可能です。」
呆然とする一行。
あと4時間でなにが出来るというのだ?
みんなの頭がショートしているところに、再び通信機のコール音が鳴った。あわててジョニーがスイッチを入れる。今度は映像通 信だった。
「こちらヤマト艦長オキタだ。」
あわててステーションクルーの影に隠れるドンキホーテ一行。
こっそり見てみると、確かに見覚えのある艦長の顔が映っていた。ブリッジ内でも火災が発生しているらしく、画面 は乱れ、真っ赤に染まっている。
「ステーションには自由貿易商船が係留されていると言ったな。」
「はい。A2型商船です。」
「被害が大きく、満足な修理も出来ない状態だ。特にメインノーマルドライブの慣性制御装置がドライブ区画ごと全壊している。予備も保管庫ごと破壊された。ヤマトの艦載艇の慣性制御装置ではヤマトのドライブの出力に耐えられない。姿勢制御スラスターだけでは衝突コースから外れられない。」
なんとも絶望的な状況である。
「ステーションには非常用スラスターの慣性制御装置あるはずだ。それを外し、その船で輸送してほしい。修理が間に合えば衝突は回避できるだろう。」
トーマスとジョニーが慌てて管制室から出ていった。装置を外しに行ったのだ。
ドンキホーテ一行は隠れ場所が無くなったので後ろを向いた。
代わりにプロテが答える。
「しかしドライブ区画が全壊していて装置を接続できるのですか?」
「船外から直接ドライブに接続する。すでに準備は始めさせている。急いでくれ。」
「分かりました。ところで敵はやはりゾダーンですか?それともまさか海賊!?」
確かにあのヤマトに喧嘩を売る海賊がいるとは思えない。
「今のところ所属不明だ。」
その時アリスが後ろを向いたまま叫んだ。
「我々は一般人ですよ!そんな危険な仕事は出来ません!ただでは。」
「・・・今のは係留されている商船の船長かね?」
「え〜と・・・」
プロテが口ごもるが、アリスが続けた。
「船長の代理人です。緊急事態なのは分かりますが、この任務に関する経費とそれなりの報酬は約束してくださるんでしょうね!まだヤマトを攻撃した敵がうろついてるかもしれないんですし。それにうちは零細企業ですので、1回予定外の仕事が入るだけでつぶれかねません。」
「分かった。約束しよう。」
マルコは後ろ向きのアリスがにやりと笑ったのを見逃さなかった。
「また自由貿易をやってますと、どうしてもいろいろな問題が生じることがあります。しかしヤマト救出というかけがえの無い任務の前では、その他の細かいことは頓着しませんよね!」
「なんだかよく分からないが、了解した。とにかく急いでくれ。」
「毎度あり!」
ちなみにセルジオネスは与えられた部屋にひっこんでいた。
一行がドンキホーテ号に向かおうとした時、プロテが叫んだ。
「なんだあれは!?」
彼の視線を追うと、ステーションの窓に異様な物体が迫ってきているのが見えた。
それは漆黒の奇妙な幾何学的な形状で、背後の星を隠していた。
プロテは質量探知機の表示を見て目を丸くした。
それはガスジャイアント並の質量だと表示されていたのだ。
次の瞬間、それはブリッジのキャノピー一杯に拡大した。急速に接近したのだ。
それは漆黒のピラミッドであった。
「ま・・・まさかこれが例の識別不能艦!?」
アリスがそう言う間にも、ピラミッドの先端からは赤いビームが発射された。
あまりに急な死の予感に目をつぶったアリスだったが、衝撃が来ないので目を開けてみた。
見えてきたのは異様な光景だった。
ピラミッドから放射された幾筋もの赤いビームが、まるでそこになにも無いかのようにステーションの全ての設備を貫通 し、動き回っていたのだ。
「な、なんだこれ?」
マルコが額の汗を拭きながら答える。
「一種のセンシングビームらしい。こっちの戦力を探ってるんだろう。」
ジャニアスとクルスもとまどっている。
「なんじゃ?何事が起こっておるのじゃ?」
「なんなんですかこの光は?」
アリスが叫んだ。
「動くな!なにもするな!息も止めろ!」
二人は目を白黒させて黙った。
しばらく続いた赤い光線の乱舞はいきなり止まったと思うと、ピラミッドは向きを変え、恐ろしい加速度で飛び去った。
プロテがため息をついた。
「ふう・・・どうやら武装が無いのが幸いしたようですね。」
探知機を見てみると、遠ざかるピラミッドは10G以上の加速度で、それもどんどん増加していた。
「なんだこりゃ?探知機の故障か?」
言ってる間に探知機の範囲ぎりぎりのところまで進み、消えた。
「ヤマトをやったのはあいつだな。」
「うむ。間違いないだろう。何者だ?」
探知機の記録では、距離100kまではなんの反応もなく、いきなりガスジャイアント並の高質量 を記録。しかし見た目では数百メートルの大きさしかないようだった。中性微子探知機その他の探知波には一切反応無し。既知の生命反応も無し。10kまで近寄ってようやく僅かにレーダー波に反応していた。
要するに見当もつかないということである。
船に入ると、モニターしていたらしいサンチョの声が迎えてくれた。
「おかえりなさい。お疲れさまでした。お食事になさいますか?」
アリスがブリッジに走りながら叫ぶ。
「サンチョ今どこにいる?」
「ブリッジです。」
「よし!」
そう言いながらアリスがブリッジに入ってきた、マルコとクルスも続く。
ジャニアスはドライブ区画に向かった。
「クルスは部屋に戻ってビデオカメラを持ってこい!」
「え?いいんですか?」
「馬鹿者!こういうときに記録を残さないでどうする!」
「わ・わかりました〜!」 クルスが慌てて走り出ていった。
アリスはサンチョに向き直った。
「こっちに向かってる大型の船がいるのが分かるか?」
「はい。探知機で捕らえています。距離約7000k。こちらに接近中のようです。」
「その船と今からランデブーするコースを計算してくれ。」
「分かりました。」
モニタにジャニアスの顔が映った。
「うう・・・ステーションに接続されていたからパワープラントの温度は下がってない。すぐに点火できそうじゃ。」
「よし!すぐに始めてくれ。」
宣言通りパワープラントにはすぐに火が入った。
続いてノーマルドライブも点火成功。
コンソールに向かっていたサンチョが顔を上げた。
「目標船のコースですと、3時間42分後にカラビールに激突しますが。」
「そうだ。だからその前にランデブーして、修理機材を渡すんだ。」
「目標船の速度がこのままだとして、相対速度を合わせられるポイントは、激突回避可能地点まで1時間もありません。」
アリスが通信機のスイッチを入れた。
「ステーション!こっちは準備完了だ!装置はまだか?」
息の荒いトーマスが答えた。
「今外れたところだ。すぐに持ってゆく。右舷の船倉ドアを開けてくれ。」
「了解。」
ドンキホーテ号は右側面で、エアロックと船倉ドアがステーションに接舷されているのだ。
「今運び入れた。下手したらステーションも巻き込むかもしれないから、全員そのまま乗り込むぞ。セルジオネスさんも連れてきた。」
「なにがどうなっとるのじゃ?」
どうやらセルジオネスに事情を説明する時間も無かったらしい。
トーマスはかまわず続けた。
「宇宙服も着ている。ドッキングはそっちで外してくれ。ロックは外してきた。」
マルコが冷静な声で答える。
「了解した。ドッキングを解除する。」
彼の操作で、船全体に鈍い振動が伝わった。窓外の景色がわずかずつ右に流れてゆく。
「ドンキホーテ号、発進する!」
ドンキホーテ号の後部メインスラスターが光り輝き、船は一気にステーションから離れた。
「コース変更。ヤマトに向かう。」
いつになく緊迫した雰囲気の中、クルスは興奮した顔でブリッジの様子を撮影していた。
「すごい〜!映画みたいです〜!」
「クルスはしゃべるな!雰囲気がぶちこわしだ!」
数時間後、ヤマトが肉眼でも見えてきた。遠目で見ても燦々たる有様なのが分かった。
ビームレーザーで全体を切り裂かれたようだ。想像以上の被害である。
さっきの体験を思い出し、一行の身体を冷たい汗がつたった。
第5次辺境戦争の始まりか?
巨大な装甲のかたまりであるヤマトを、一瞬にしてあそこまでボロボロにする攻撃能力はすさまじいものがある。機動性や隠密性も、現在の帝国のテクノロジーとはケタが違った。
さっきのあれががゾダーンの戦艦だとしたら、次の辺境戦争ではあっという間に決着がつくことになるだろう。
敵がなんにしろ、ドンキホーテ号が狙われたらひとたまりもないのは間違いない。
「ヤマトの速度とコースが安定しません。姿勢制御スラスターを使っているようです。」
サンチョの声に、アリスが通信機にとりついた。
「こちら自由貿易船ドンキホーテ号。ドッキングするまでスラスター使用を停止せよ。」
すぐに返答があった。女性の声だ。
「こちらヤマト副長ダジロー・チャイムです。スラスターを停止しますが、まだ各所で爆発が起こっているので、不規則な加速を完全に停止するのは不可能です。なんとか手動でドッキングしてください。」
「なんてこった!」
叫んだのはマルコである。こんな状況で、運任せのアクロバットを演じなければならないとは。
反転したドンキホーテ号は、最大加速でなんとか相対速度を合わせた。しかしドッキングとなると、少しのずれでも致命的な事故になりかねない。
しかしマルコは必死で操船し、約30分ほどでなんとかドンキホーテ号左舷をヤマトの船体まで20メートルのところまで接近させるのに成功した。
「よし。このままドッキングする。動いてくれるなよ。」
慎重に距離を詰めてゆく。
すでに視界一杯に広がっているヤマトの船体が、少しずつ近寄ってくる。
固唾を呑むアリス。ここはマルコの操船に任すしかない。
当のマルコは鬼のような形相で計器をにらんでいる。
もう少しである。
しかしあと5メートルというところで、ヤマトの左舷で爆発が起こった。
ほんの少しだが、ヤマトが右に傾いた。
マルコは突然目の前に迫ってきたヤマトの船体を見て、悲鳴をあげながら操縦桿を操作した。
激しい振動が伝わり、金属のよじれる音が聞こえた。
ヤマトは変わりなくカラビールに向かって進んでいる。
ドンキホーテ号ははじき飛ばされて、約2k離れたところでなんとか体勢を立て直した。
「くそっなんてこった。被害状況は?」
マルコが再びヤマトに接近するコースをとりながら言った。
「はっきりとはわからんが、左舷前方がひしゃげたようだ。」
「左舷前方と言ったら・・・」
船長室。大株主であるジャニアスの部屋である。
ブリッジから左側を見てみると、普段は不透明な右側に面した窓が透明になっており、中がぐちゃぐちゃになっているのが分かった。気密も失われ、色々な物が吸い出されているようだ。
「ジャニアス・・・気の毒に。」
「あいつがドライブ区画にいてくれてよかった。」
確かにここにいて自分の部屋の悲惨な状態を目にしたら、ショックのあまり気絶していたかもしれない。
「今の衝撃でヤマトはコースから外れてないのか?」
「ヤマトのコースにほとんど変化はありません。激突回避可能地点まであと7分です。ヤマトが姿勢制御スラスターを使っていたおかげで予定よりものびました。」
のびてそれかよ・・・。
アリスとマルコは肩を落とした。もう間に合わない。
「クルス・・・撮影中止だ。記録は抹消しろ。」
「ええ〜!?どうしてですか〜!?」
「こんなもの公開したらつるし上げられるぞ!」
サンチョの声が割り込んだ。
「ヤマトが姿勢制御を再開。艦載艇を放出しています。」
「なに!?」
見れば確かに様々な船がヤマトから発進していた。
通信が入る。
モニターにオキタの顔が映った。相変わらずブリッジは燃えているようだ。
「オキタだ。諸君らの協力に感謝する。不測の事態で修理は間に合わなかったが、君たちの名は英雄として記録に残されるべきだろう。」
アリスがぼそりと言った。
「クルス。記録してるか?」
「さっき切りましたよ。すぐ再開します。」
「・・・この馬鹿。」
オキタは続けた。
「ヤマトのクルーで生き残っている者は、船外に脱出する。あとのことは頼む。」
「あとの事って、どういうことです?」
「副長。説明してやってくれ。」オキタがそう言うと、画面はダジロー・チャイムに切り替わった。
その顔も見覚えがあった。一行が捕まったときにいた女性だ。
「艦長は・・・あ、あなたたちルーの・・・」
いきなり思い出したらしい。こっちもあまりのことに顔を隠すのを忘れていたのだ。
「ああ・・・こりゃどうもお久しぶりです。お元気でしたか?」
焦りのあまりアリスがわけの分からない返事をする。
「艦長!彼らはルーで不審な行動をとっていた者たちです!」
あの女・・・歯がみするアリス。
画面には映らなかったが、オキタの声が聞こえた。
「そう言えば見覚えのある顔だったな。しかしそんなことは問題ではない。職務を遂行したまえ。」
流石艦長懐が深い!今度は笑顔になるアリス。その顔をクルスが撮影していた。
ダジローは悔しそうな顔で話し出した。
「艦長は船と命運を共にされる決断を下しました。最後まで姿勢制御を行い、カラビールへの被害を最小限にするためです。」
そう言った彼女の頬に涙がつたった。
いきなりマルコも涙を流しはじめた。
「おお、男だ・・・。」
アリスは舌打ちして言った。
「なるほど。 しかしヤマトがカラビールに落ちてしまっては我々に出来ることは無いでしょう。あとを頼むとはどういうことです?」
ダジローが顔を上げた。
「ヤマトに搭載されている船には、ジャンプ能力のあるものはありません。その船もほとんどは使用不能で、生存している乗員380名の内、半数はまだ船内にいます。そちらの船倉なら残った乗員を全員収容できます。」
「結局ドッキングしろっていうことか。」
そう言って、マルコが操縦桿を握り直した。
「その通りです。その後のことはまたあとで説明します。」
今度は比較的時間に余裕があり、今度はドンキホーテ右舷でなんとかヤマトとドッキングに成功。宇宙服を着込んだ乗員を、オキタ以外全て収容した。
船倉から通信が入る。
「こちらダジロー。全員の収容を終わりました。」
「よし!ドッキング解除。離脱する!」
マルコの操船で、ドンキホーテはヤマトから離れた。
ブリッジの右側の窓からは、ヤマトのブリッジにいるオキタの姿が確認できた。
オキタは艦長席らしき高所にある椅子におさまり、こっちに向かって敬礼していた。
マルコがまた泣きながら敬礼を返した。
アリスはこんな時になにをかっこつけとるんじゃと思っていたが、一応敬礼しておいた。
感動的なシーンはしっかりとクルスのビデオに記録されたのだった。
ヤマトの落下予想地点は、よりによって大陸ドラのど真ん中であった。
下手に海に落ちて津波をおこすのを怖れたためだが、これでは衝撃で生態系が消し飛びかねない。
ヤマトが大気圏に突入すると、軌道上からでもまわりの雲が吹き飛び、ヤマトが赤熱化しながらも、まったく燃え尽きることなく落下してゆくのが確認できた。
その時ヤマトのコースが変わった。
まだヤマトの反重力発生装置が生きていたのだ。重力下に入ったことを利用し、オキタがなんとか姿勢制御に成功したらしい。
大陸の中央部は避ける事が出来た。しかし墜落は避けられなかった。
ヤマトは大陸東部の内海にある島に落下したのだった。
ドンキホーテ商事の冒険 第16回 終了