ドンキホーテ商事の冒険
第19回

エクストーレイ殺人事件


242日
 ドンキホーテ号はエクストーレイ軌道宇宙港に到着した。
乗降タラップから乗客が降りてゆくが、メアリーとトーマスのカップルと、アーマー付きクロースを着たポールとジャンは緊張した面もちだった。
 ドンキホーテの一行は、今から始まるショウを楽しみにしていた。
特に興味深いのはトーマスがどうやってポールとジャンを倒すのかということで、トトカルチョにまで発展しかけていた。
クルスはこっそりとビデオカメラを忍ばせていた。
見ていると、ポールとジャンが素知らぬふりでカップルに近寄ってゆく。
いきなりジャンが銃剣らしい小型の短剣を懐から取りだして、ポールに渡した。どうやって金属探知器を突破したのであろうか。
ジャンはメアリーを背中から羽交い締めにし、ポールが銃剣を突きつけた。
「キャアアアアアア!」
メアリーの悲鳴。渾身の演技である。
それに比べてポールの演技はお粗末だった。
「ううう動くな!おおお、俺たちはロブスター家のととと当主に雇われたんだ。だだだ大事なむす・・・娘を・・・あ〜」
メアリーがなにか囁いた。
「いや、息子だ。息子ををとられたって言うんで、おお、おやじさんはあんたを殺してでもうば、奪い返すつもりだ。」
しばらくの間。
トーマスがはっと気付いた。
「ま、待て!メアリーになにをする!いくらち、父の命令でもゆるさ、許さんぞ!メアリーは僕の・・・僕の命だ!」
いくらなんでもこれはひどすぎる。
楽しみにしていたイベントのあまりの出来の悪さに、ドンキホーテの一行は大きくため息をついた。
もはや見ているのが苦痛である。
アリスがつかつかとメアリーに歩み寄った。
「お取り込み中のところすみませんが、メアリーさん。お父さんに連絡しますよ。」
「連絡?そうよ連絡しなさい!なにが起こるのかきっちりと目に焼き付けて!」
「それには及びません。あなたが彼らを雇っているのは見当がついているんです。」
「え!?・・・」
一瞬呆然としたが、まだ諦めないメアリー。
「なにを証拠にそんなことをおっしゃるの!?バカを言わないで!今こうして危険な目に合ってるのが見えないの?」
「危険?そのオモチャの銃剣がですか?」
金属探知器にひっかからない筈である。
「え・・・」
流石に言葉を詰まらせた。
「だから武器は本物使えって言ったんだ・・・。」なにやらジャンがつぶやいている。
アリスはメアリーに近寄って、こう言った。
「メアリーさん。迷惑料と口止め料10万クレジットで手を打ちましょう。」
「き〜〜〜!」
その時マルコは小さく空気の漏れるような音が聞こえた。
振り返ると、すでに出口の方にいるデューク・トウゴウの姿が目に入った。
どこから出したのか、ボディピストルを構えている。銃口についているのは杖の握りである。サイレンサーだったのだ。
誰かの倒れる音が聞こえ、メアリーの恐怖に震えた声が響いた。
「トーマス!」
トーマスは胸から血を流して倒れていた。
最初にポールとマルコが走り出し、ジャンとアリスが続いた。
デュークはすでにドッキングエリアから走り出ている。
宇宙船発着施設の中央部まで出てくると、遠くで人をはねとばしながら逃走するデュークを見つけた。
更に追うと、デュークは小型艇の発着場へ飛び込んでいった。
小型艇の発着場は空気があり、発着するときには船ごとエアロックに入るようになっている。
4人が中に入った時に銃声が聞こえた。サイレンサーを外したのだろう。
小型の密閉型エアラフトから、撃たれたらしいパイロットが引っ張り出されている。
デュークの顔は、帽子もサングラスも、ヒゲさえも無くなっていた。
変装だったのだ。
キャノピーが閉まる一瞬前に、ポールが手を突っ込んで止めた。
デュークがその手に銃を向けたが、彼はそのまま手を伸ばし、銃身をひっつかんで持ち上げた。
もう片方の手でキャノピーを引き開ける。馬鹿力である。
デュークは空いている方の手で杖をつかんだ。杖の先から鋭い棘が飛び出した。
「ほんとに仕込み杖か!?」
アリスが呆れる。
デュークが杖の先をポールに向けようとした時、ゴムの銃剣が彼の目に当たった。ジャンが投げたのだ。
一瞬デュークの動きが鈍ったところを、杖を持つ手首をマルコがつかんだ。エアラフトの反対側に回っていたのだ。
結局なにもしなかったアリスが顔を出して、言った。
「観念しろ!」

 ジャニアスは医療キットのモニタを見て、首を振った。
「駄目じゃ。あとはここの設備の蘇生処置に賭けるしかないじゃろう。」
メアリーが泣き崩れる。
そこに宙港の救急班と警備員が駆けつけた。
「こちらは現場です。残念ながらジャニアス医師の治療では手の施しようがないようです。果たしてトーマス氏の命は助かるのでしょうか。また犯人を追った4人の運命は?」
ジャニアスがペラペラしゃべるクルスの頭を思いっきりどつき、カメラをひったくった。

 結局トーマスは助からなかった。
デュークは警察に引き渡された。


 警察での取り調べ、荷物の積み卸しなど、忙しい時間が過ぎ、一行は談話室で一休みしていた。
とりあえずメアリーは宙港内のホテルに部屋をとったらしい。
彼女は怒りと悲しみでほとんどパニック状態で、警察でもまともに話ができる状態ではなかった。
メアリーに雇われていた二人組は、警察で絞られた後、どこかへ姿を消した。

 アリスは彼女をダイナムンに送り届けようと提案した。
マルコは難色を示した。彼女があの状態では、もし彼女の親が殺し屋を雇ったのだと告白すれば、親を殺しかねないのではと懸念していたのだ。
相談の末、やはり彼女を一人にしておくわけにもいかず、連れて帰る方向でまとまった。
もちろん彼女がダイナムンに帰るという話に納得すればの話だが。

 アリスがテレビをつけると、ニュースが流れていた。
偵察局の基地が慌ただしい雰囲気に包まれ、次々と船が出航している。
その目的地は明かされていないが、ジンニー星系であるとの噂が流れている。またジンニー星系で、偵察局の施設が大規模な事故をおこし、その救援に向かっているのだという噂も流れているらしかった。
  一行は顔を見合わせた。
ヤマトの件が漏れだしたのだ。やはりあれだけの乗員と巨大な船体をなんとかしなければならないとなると、動員される人や船も増え、秘密も守れなくなってきているのだろう。
ここは目立たないようにして、ドンキホーテ号が関係しているのを悟られないようにしないと、大変なことになる。


 アリスはコンピュータ室にこもり、ダイナムンからエクストーレイへの航海の収支計算に入った。まだ投機品目に動きはないので、正確な数字は出ないが、それでも経費など、複雑な計算を要する。
定期整備への積立金も設定した。毎週2000クレジットプールしておけば、だいぶ楽になるはずである。

 クルスはラウンジで、次のダイナムン行きの客寄せ用のコピーを作っていた。
あ〜でもないこ〜でもないと考え込んでいるクルスの横で、ジャニアスはサンチョとチェス。
「ジャニアスさん。そこに置きますと、次に私がこうすれば王は死んでしまいますが?」
「うう・・・いいのじゃ。」
「そうですか。」
ジャニアスはぼんやりしていた。着いた早々の事件がショックだったらしい。
彼の目に、マルコがカバンを抱えて昇降口の方へ歩いてゆくのが見えた。
「うう・・・どこへ行くのじゃ?」
「買い物だ。気分転換にな。」
「待ってくれ。わしも行くぞ。」
「あ、僕も連れてってくださいよ〜〜〜」
と、言うわけで3人で軌道宇宙港の娯楽エリアへ向かった。
エクストーレイの軌道宇宙港は巨大だった。ダイナムンのそれも巨大だったが、それを遙かに上回る規模である。
うろうろしたあげく、武器店などでめいめい買い物をして、次第に個別行動になった。
 ジャニアスは靴店で長い時間ステッキを選んでいた。お気に入りを持っていたのだが、ドンキホーテ号がヤマトに接触した時に、真空中に吸い出されてしまったのだ。
やがて気に入ったものを1本購入し、帰路についた。
帰り道ではなぜか警官の姿が目立った。慌ただしい雰囲気である。
ドッキングエリアの前まで来ると、妙な集団が目に入った。


 収支計算を終え、ラウンジでくつろいでたアリスは、昇降部からのコールが鳴ったのに気付いた。
スイッチを入れると、ジャニアスの声が聞こえた。
「うう・・・わしじゃが。」
「なんだジャニアスか。いちいちコールしなくても入ってこれるだろうが。」
「連れがいるのじゃが、一緒に入ってもいいかのう。」
「客?珍しいな。猫でも拾ってきたのか?」
「そんなようなもんじゃ。」
珍しいと言うより初めてだ。少し不安になる。
もしかしたら銃でも突きつけられて脅されているとか・・・。
ブリッジに行けば映像交信も出来るが、面倒である。それにジャニスの口調は脅されているという風でもないし、それが分からないほど演技力があるようにも思えなかった。
「分かった。ロックを解除しよう。」
アイリスバルブが開く音がして、まずジャニアスが顔を出した。
客とはどんなやつかと興味津々で見ているアリス。
ジャニアスに続いて入ってきた人物は、直立歩行ではあるが、毛むくじゃらの巨大な猫科の動物のような顔をしていた。
「な!?」
しかもそれが、ぞろぞろと6人も入ってきたのを見て、アリスは腰を抜かしかけた。
この辺りでは非常に珍しい種族。アスラン人である。


 ジャニアスは助かったというような顔で、恐ろしそうに部屋の隅から見ている。
マルコもすぐにそれに加わった。
クルスはビデオカメラで撮影しようとしたが、護衛ににらまれて諦め、やはり部屋の隅へ。
仕方なくアリスが相手をした。

 彼らはKhtukhao(クゥトゥカハオ?)型輸送船に乗って帝国領内を回っている外交使節なのだという。
代表者は年配の男性アスラン人で、ヒレウア・エソウィアル。
紹介されたヒレウア氏は、ふがふがとしか言わなかった。少しぼけているのかもしれない。
 彼らの船から、円筒状の置物が盗まれた。それは6人のアスラン人の中で実質的に一番権力を持っているらしい、年配の女性アスラン人が大切にしていたものらしい。彼女はヒロアと言い、ヒレウア氏の奥さんなのである。
そこで置物を見つけるのと犯人を捕まえる協力してくれる人を探しているのだという。
 彼らの内でギャラングリック(銀河公用語)をしゃべれるのは通訳の若い女性アスラン人だけで、しかも彼女もカタコトしかしゃべれないので、これだけの話を聞くのに非常に時間がかかった。
「しかし警察に通報したんでしょ?我々が出る幕はないでしょう。」
そう言うアリスのセリフを、通訳がばあさんに伝えた。
まともに伝わっているのかも怪しみたくなる。
ばあさんがごにょごにょ言うと、通訳が話し出した。なんか子猫がニャンニャン言ってるような、可愛い声である。
「ケーサツ。置物。重要。否定。真面目。ソーサくれない。犯人。ジョーホー信じるない。」
置物程度では真面目に捜査してくれないということか?そのあとは?
「犯人の情報?それはどんなものです?」
またごにょごにょやっている。
「見る無い過去。異星人。口縦。ボロボロ。服。切れ端。シンクー。平気。逃げた。エクストーレイ。地上。エアラフト付着。」
?????
要するに見たことのない異星人で、裸同然の姿で真空の中をエアラフトにとりついてエクストーレイに逃げたということか?
そうだとしたら確かに警察が信じないのも無理はない。そんな種族の話は噂でも聞いたことが無かった。
それにしても口縦とはどういうことだ???口が縦に裂けているのであろうか?
「そういうことなら協力しないでもないですが、うちは貿易商人ですので、ただでさえ色々仕事が立て込んでます。それを裂いてとなると・・・報酬によりますね。」
例によってのアリスの商談モードのスイッチが入った。
通訳から話を聞いたばあさんは、いきなりカバンから直径30cmほどの円形の物体を取りだした。
それには縦横に複雑に線が張ってあり、それにいくつもの球体が取り付けられていた。
彼女をそれを膝の上に置くと、パチパチと指先で玉を弾き出した。
どうやらアスラン人のソロバンのようなものらしい。
何度か玉をはじくと、彼女はソロバンの側面部分をずらした。玉の固定ギミックのようで、その後は彼女がソロバンを持ち上げても玉は動かなかった。
それを見た通訳が、アリスに振り返って言った。
「犯人捕獲。置物戻る。256クレジット支払う。」
アリスは椅子から落ちそうになった。
「安すぎる!話しにならん!」
ごにょごにょ。
「帝国クレジット。所持最低限。早くヨーイ不可能。」
アリスは舌打ちをした。
「じゃあなにか高価なものを船に積んでないのか?宝石とか。あ。」
「?」
通訳が首を傾げる。これまた子猫みたいで可愛いしぐさである。
「余分のエアラフトを載せていたら、それが欲しい。その置物がそんなに大事なものなら、エアラフトの1台くらいどうってことないだろ?」
アリスはドンキホーテ号に、エアラフト発着施設はあるのにエアラフト自体が無いのを思い出したのだ。
普通エアラフトは安いものでも3万クレジットほどはする。
しばらく婆さんとごにょごにょ言っていた通訳が振り返った。
「ヨクワカリマシタ。密閉型エアラフト。承認します。しかし条件。アスラン製。」
アリスは小躍りしかけたが、最後のセリフで動きが止まった。
密閉型の場合は安くても30万クレジットほどかかる。まさに踊って喜ぶ申し出なのだが、アスラン製とは・・・人間に使えるのだろうか?
彼らの体つきを見てみる。護衛達は身長2.5メートルくらい。通訳の女の子(?)は160cmくらいか。
大きさ的にはまあ問題無さそうだ。しかし彼らの手は・・・人間と同じように5本指なのはいいが、確か手の平の親指の付け根あたりから、出し入れできる鋭い爪が生えているはずである。それまで操縦に使うようだと厳しいかもしれない。
アリスは自分の手の平を指さして、見せた。
「ここに隠れている爪は操縦にも使うのか?」
通訳は3人の護衛達を振り返り、なにか言った。
護衛達は手の平を見せた。次の瞬間、予想以上に巨大で鋭い爪が伸びた。人間など人掻きで殺せそうである。
部屋の隅でマルコ達が「ひっ」と声を上げた。
護衛達がごにょごにょ言うのを聞き、通訳が言った。
「必要ない。基本的に。」
「そうか。しかし基本的にというのが気になるな。」
そこにマルコが口を挟んだ。
「いいじゃないか。なんとかなるって。」
「しかしなあ。売るにしたってアスラン製ではなあ・・・」
「俺はアスラン製エアラフトに乗ってみたいぞ。引き受けよう。」
「アリガトゴザイマス。犯人も。連れてくる。オネガイシマス。」
通訳にそう言われ、しばらく眉を寄せていたアリスだが、こっちを見ている護衛3人を見て、ため息をついた。
「仕方がない。とにかく全力を尽くそう。」


「情報収集は元ジャーナリストのお手のものだろう?後は頼んだ。」
「なんだって!?」
アスラン人達が帰った後、一行はこれからどうするのか相談していたが、アリスのセリフにマルコが切れかけていた。元ジャーナリストのクルスはおどおどしている。
「私はドンキホーテ商事の経理担当として、儲かるように話をまとめようとしてたんだ。しかしマルコのせいで中途半端な報酬に決まってしまった。あれは私の本意じゃない。だからあとは頼むと言ってるんだ。」
「アリスも全力を尽くすと言ったじゃないか。」
「ああなったら仕方が無いじゃないか。あそこで護衛3人に暴れてほしいのか?」
「ぐぐぐ・・・分かった。俺はやることはやる。しかしアリスにも動いてもらうからな!」
「気が向いたらね。」
「ぬうううう。」

その日は結局アリスとマルコは喧嘩したまま部屋に引っ込んでしまった。
ジャニアスとクルスは顔を見合わせ、肩をすくめた。


ドンキホーテ商事の冒険 第19回 終了

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