ドンキホーテ商事の冒険
第4回

救出!(4)



身も心もボロボロの4人を乗せたエアラフトは、ネベルソーンの東岸約50kmの海中に身を隠していた。
軌道上からも見つからなさそうなところと言えば、水中しか思いつかなかったのだ。
ルー全体が本腰を入れて探し始めれば、質量探知機をはじめとする各種EMSで海中のエアラフトも発見される可能性があったが、とりあえずはまだ大丈夫そうだった。

エアラフトの中は重苦しい空気で満たされていた。
誰も口をきこうとせず、時たまクルスのうめき声が聞こえる他は、エアラフトのパワープラントの低いハム音が静寂を目立たせていた。

アリスはふてくされたようにシートの上であぐらをかいて、腕を組んで考え込んでいた。両の手はしきりに腕を叩いており、イライラしているのが見て取れた。
サングラスで表情は見えないが、口髭の下に見え隠れする口は大きくゆがめられている。

アリスに対して対角線上の、機内で最も離れた位置のシートでは、相変わらずマルコが窓外を見つめていた。
窓の外は凍るような冷たい水で満たされており、水棲生物の姿も見えない灰色の暗い景色だった。

ジャニアスは一通りクルスの治療を終え、その脇に座り込んで自分のカツラを手慰みにしていた。
自分の傷の手当は忘れているようだったが、大したことはなさそうだった。
彼の手が滑ったらしく、カツラがクルスの顔の上に落ちた。
クルスは意識が朦朧としているようで、カツラを払いのけようともせず、「うーん、うーん」といううめき声に、「暗い・・・、暗い・・・」というセリフが加わっただけだった。


マルコが視線を窓外に向けたまま、つぶやいた。
「そろそろやる気になったか。」
「むぅ・・・」
応えたのはアリスだった。

アリスはずっと考えていた。
遠回しな行動が2度も失敗に終わった以上、もう猶予はない。ぐずぐずしていたら手遅れになってしまうだろう。
今この瞬間にエアラフトが見つかってしまう可能性もあるのだ。
残された道は2つ。
刑務所を強襲するか、あきらめて戻るか。
あきらめた場合、報酬が手に入らないばかりか、オベルリンズを敵に回す可能性が高い。そうなったら4人とも生きてはおれないだろう。
つまり彼らに残された道は本当は1つしかないのだ。しかしそれを認めたくないアリスは、ずっとイライラしながら考え込んでいたのだった。
「・・・・確かに、こうなってしまっては仕方なかろう。」
「よし。」
マルコがすっくと立ち上がった。
「ジャニアス、クルスはどのくらいで動けるようになる?」
「うう・・・傷自体はもう大丈夫じゃから、目が覚めて少し休ませれば動く分には問題ないじゃろう。」
「じゃ、参加できるな。よし。只今よりラスタム刑務所強襲のブリーフィングを行う。ちなみに指揮は俺がとる。あ、元々俺がリーダーだったな。」
最後のセリフはアリスに向けられていた。アリスは腕を組んだまま何も言わなかった。
「さて、刑務所襲撃作戦だが・・・」
ここまで言ってマルコは眉を寄せた。視線が宙を舞う。
実は彼はブリーフィングといっても作戦を命令される、または言われたとおりに伝える立場ばかりで、自分で作戦立案となると、どうしていいのか分からないのだった。

そんなマルコを見かねたのか、アリスが口を開いた。
「強襲と言ってもそのまま出向いたんじゃ、軍隊のお迎えを食うのが落ちだ。まず向こうがこっちの接近にまともに対処できないようにしなけりゃなるまい。」
「うむ、そ・・・その通りだ。で・・・・」
マルコはやはりそこで止まる。
「相手の対処を狂わせるのは情報の制限が一番だ。まず決行は夜間。それからまわりの電線をあらかじめ切ってしまえば、電話は通じないし、うまく行けば大規模な停電も引き起こせるだろう。」
「うむ・・・そうだな。」
「オベルリンズから渡されている軌道上からの写真で、ある程度あたりの配線状況はつかめる。反重力ベルトで切って回れば余り目立つこともないだろう。」
「うむ・・・。」
アリスは慇懃な態度でつけ加えた。
「この線で進めてよろしいでしょうか。隊長殿。」
マルコは太い眉をピクピクさせながら答えた。
「うむむ・・・いいだろう。今後アリスを作戦立案の責任者とする。」


夕闇の迫る中ECMを最大限に作動させて、エアラフトは海面に浮上した。
いつの間にか雪が本降りになっており、視界はゼロに等しかった。
レーダー対策を考え、海面すれすれを出来る限りのスピードでネベルソーンへ向かう。

機内では完全武装の4人が、緊張した面持ちでシートに着いていた。
マルコとクルスは反重力ベルトを装備していた。
マルコは磁気ライフルの手入れに余念がない。クルスも一応ライフルを渡されていたが、それは肩に掛けたままで、手には大事そうにビデオカメラが握られていた。

ジャニアスは医療キットの中身をチェックしている。
アリスは操縦席で冷や汗を流していた。さも当たり前のように作戦を組んでは見たが、いざ実行するとなると震えもする。彼は元ベテランの偵察局員で、トラベラー協会の特殊チームのリーダーでもあったし、更にはギャンブラーでもあったが、不幸なことに兵士ではなかった。

あたりが闇に包まれるころ、エアラフトは第1ポイントに到着した。
はげしい雪の中、マルコとクルスは反重力ベルトの浮力を借りて機外へ飛び出していった。

マルコ、クルス、アリスとジャニアスのエアラフトの3つのチームは、それぞれに割り当てられた破壊目標へ向かった。


夜の闇の中を山の斜面に沿って飛行し、マルコは送電中継設備にたどり着いた。
雪で確認しづらいが、灰色の建物と鉄塔が木々に隠れるようにして建っている。
近くに道路がある。建物の脇には騎乗用らしい鞍をつけた動物がつながれていた。
冷静で無駄のない動きで磁気ライフルを構えると、鉄塔の頂上部に連射した。
火花と煙が上がり、何本かの太い電線が切断されて森に垂れ下がり、そこから火の手が上がった。
無表情で今度は動物を狙い、蜂の巣にする。
建物のドアが開き、作業服を着た男が何事かと走り出てきた。
マルコは照準を男に合わせたが、一瞬ぴくりと眉を動かすと、少しずらした。
ライフル弾を男の至近距離に浴びせ、悲鳴を上げながら森に逃げたのを確認すると、素早く建物に接近し、火を点けたダイナマイトをドアの中に放り込んだ。
きびすを返し、次の目標へ向かう。
彼の背後で派手な爆発が起こったが、振り返りもしなかった。

エアラフトは山間にある巨大な送電中継塔にたどり着いていた。
あたりは雪の積もった木があるばかりで、人影はない。
機内ではアリスとジャニアスが黙ったまま、動きを止めていた。アリスは当然ジャニアスがやるものと思っていたし、ジャニアスは作戦の責任者がなにか言うのを待っていた。
先にしびれを切らしたのはアリスだった。
「なぜ塔を破壊しないんだ?」
「うう・・・していいのか?」
「あたりまえだ。時間もないんだ。早くすませてくれ。」
「どうやればいいんじゃ?」
「・・・・・・」
少し間が空いた。

「そういえばあんた医療キットを使う以外、何が出来るんだ?」
「わしは10日くらい前まで海軍の中佐じゃった。破壊工作の指揮をしたこともある。」
「なんだプロじゃないか。中佐様とは。まぁどこぞの田舎海軍だろうけど。(実は帝国正規海軍である)とりあえずそれならさっさとやってくれませんかね。」
「だからどうやればいいんじゃ?」
「・・・・・・」
また間が空いた。
「どういうことだ?」
「だから指揮はしたことがあるが、わしがやった事はないのじゃ。」
「むがー!!!」
アリスは操縦席から飛び上がり、乱暴にダイナマイトをひっつかむと、エアラフトの側面ドアをスライドさせた。
冷たい外気が雪とともに吹き込んでくる。
「こうやるんだー!!!」
火を点けたダイナマイトを塔に向けて放り投げた。
ダイナマイトは風にあおられ、フラフラしながらも塔の根本の方に落ちてゆき、見えなくなった。
二人が身を乗り出して見ていると、一瞬オレンジ色に光り、くぐもった爆発音が聞こえ、雪煙が舞い上がった。
しかし鉄塔に変化はない。
アリスは黙ってダイナマイトを脇に10本くらい抱えると、次々に火を点けた。
一気に放り投げる。
オレンジ色の光が連続して見え、畳み掛けるようなはげしい爆音とともにエアラフトまで届きそうな高度まで雪煙と木の破片が舞い上がった。
巨大な鉄塔は、もうもうと煙が上がる中、金属のこすれ合う悲しげな音を起てながらゆっくりと倒れていった。
塔が着地した重く鈍い音がすると、更に雪煙が上がった。
あたりは垂れ下がった高圧線から引火して炎が上がり始めていた。
地獄のような光景である。
「なるほどのう。こうやる訳じゃな。しかし派手じゃのう。」
「・・・・・・・」

クルスはデータパッドで位置を確認しつつ、ヨロヨロと目標地点に向かっていた。見えてきたのは雪の積もった山の上に寂しげに建っている送電塔だった。
フェンスも何もなく、塔のまわりだけ木が切られているが、あたりはうっそうと木が茂り、人が歩いてたどり着くのは難しそうな場所である。
点検はどうしているのだろう・・・などと関係ないことを考えながら、とりあえず全景をカメラに収めるクルス。
それからぐるりと塔の周りを回ってみた。
塔からは電線が何本かのびて、闇の中に消えていた。多分線を伝っていっても同じような塔にたどり着くだけであろう。
色々アングルを変えて撮影する。
一通り撮影を済ますと、満足げにカメラをショルダーバッグにしまった。
「よし。」
クルスは次の目的地へ向かった。


集結ポイントに全員無事集合した。
ぐずぐずしている暇はない。
エアラフトに全員乗り込むと、全速で刑務所へ向かった。

通信機をチェックしてみる。
ほとんど会話になっていなかったが、分かる範囲では、ネベルソーンはこの騒ぎをジンガルーのテロ活動だと思っているらしかった。好都合である。

ますます強くなる雪の中、エアラフトは山の斜面沿いに進んでいった。
丘陵を越えると刑務所が視界に入った。
暗闇の中、いくつものパトカーらしい赤いランプが回転しているのが見えた。今刑務所に向かっているらしい光も見える。
どうやらこの混乱と刑務所とを結びつける判断力のある関係者がいたらしい。
しかし軍らしい車などは見あたらなかった。まだそこまで確信がなかったのか、軍を呼ぶまでの権威がなかったのだろう。

なんにしてももはや引き返すことは出来ない。
側面ドアを開放し、マルコとクルスが反重力ベルトを背負って飛び出し、エアラフトもそのまま突進した。


ドンキホーテ商事の冒険 第4回 終了

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