救出!(5)
研ぎ澄まされたマルコの神経は、眼下を後方に流れるパトカーのライトも、刑務所から発しているサーチライトの光も無視して、ただ第1目標の見張り塔に向けられていた。
作戦会議の時はパッとしなかった彼の頭だが、いざ現場に来てみると、何が重要で何がそうでないか考えるまでもなく、理解でき行動できた。
塔の上部は四方がガラス張りの部屋になっており、張り出しにサーチライトと機銃座が取り付けられていた。
それぞれに警備兵が一人ずつつき、部屋の中にも一人、どうやら通信機を操作しているらしかった。そういえば塔の頂上には大きなアンテナが立っていた。
マルコは夜間の雪の中距離約100mで、それだけの情報を見極めていた。
そのとき刑務所全体から重苦しいサイレンが鳴り響き始めた。
見つかったのか、それとも警戒しているだけか。どちらにしても急がなくてはならない。
彼は反重力ベルトの速度をいっぱいに上げ、見張り塔へ突き進んだ。雪が冷たい風に乗って彼の顔に当たっていたが、気にする風もなかった。
距離50mに近寄ったところで、マルコは空中停止した。
中にいる警備員の表情まで見て取れた。
磁気ライフルを構え、まずサーチライトに一斉射。
ライトは砕け散り、ついていた警備兵も倒れた。
銃座へライフルを向けなおし、更に射撃。
着弾の火花の中に、あわてる機銃手の姿が見えた。再び射撃。
機銃手が倒れたのを確認し、あらためて塔へ向かう。
塔の中では一人残った警備兵があわてて塔内部の照明を消した。しかしもうマルコはすぐそこまで接近していた。
空中停止し、通信機があったと記憶しているあたりに弾をばらまいた。
マルコの脇をエアラフトが通過した。側面ドアを開放し、アリスがダイナマイトをぽいぽい投げているのが見えた。
そういえば下の方が騒がしい。一応作戦通りである。
マルコは更に塔に近づくと、窓の一つを斉射し、粉々にした。
ガラスの破片が飛び散る中、負傷した警備兵がこちらに背中を向けて縮こまり、トランシーバーになにか言っているのが見えた。
マルコは室内に飛び込むと、振り返って悲鳴を上げる警備兵に磁気ライフルの銃床を叩き込んだ。
警備兵は動かなくなった。
マルコは窓から出ると、すぐに第2の見張り塔へ向かった。
ジャニアスはアリスに言われるままに、エアラフトを操縦していた。
「もっと右!そうだ!ストップ!」
すぐ下方でダイナマイトの爆発音が聞こえてくる。
「前進!いつまでも止まってるな!的になる!」
「うう・・・」
もうパトカーのほとんどはスクラップになり、下からの銃撃もまばらになってきていた。
今は刑務所の塀の内側に入り、警備に関わると思われる建物を片っ端から爆撃していた。
「いいのかのう、こんな事して・・・」
「うるさい!今更何を言っとる!それより見張り塔から離れろ!撃たれる!」
言われてジャニアスが振り返ると、確かに見張り塔が20mくらいのところにあった。雪の中でも機銃がこっちへ向けられているのが見えた。
撃たれたらひとたまりもない。
そう思った瞬間、塔が爆発した。粉々になった塔の部屋近くに、マルコが飛んでいるのが見えた。
彼の後方10mくらいのところには、カメラを構えたクルスが空中停止していた。
クルスは全神経を集中して、決定的瞬間を撮り逃すまいと撮影していた。たまに至近弾が飛んできていたが、気にもしなかった。
まさに今、彼はジャーナリストの鏡だった。
作戦には何の役にも立っていなかったが。

あたりは黒煙が立ち登り、照明もほとんどが消え、ただ燃え上がる建物や車の炎だけが目立っていた。
散発的に建物の影からカービン銃の射撃音がしていたが、もはや反撃と言えるものではなかった。
作戦通りまずマルコが3つある候補のうち、最もターゲットが捕らわれている可能性の高い建物へ降下した。
4階建てのその建物はコンクリ作りで、一見大きな学校のようだったが、窓には鉄格子がはまっていた。
屋上に降りたマルコは、まわりに警備兵の姿がないのを確認して、手を振った。
誘導されてエアラフトとクルスも降りてきた。
ここからはマルコとクルスが上から、エアラフト組は1階正面から突入して、ターゲットを探すことになっていた。
何とも行き当たりばったりだがどうしようもない。
エアラフト組の方は警備詰め所を発見次第、突破して、収容房の鍵を探すのが先決である。
マルコは磁気ライフルにものを言わせて片っ端からドアを開けて行く。
時間も彼らの敵だった。もういい加減軍が動き出しているはずである。いくら高TLでかためた彼らでも、軍が相手ではひとたまりもない。とにかく急がなくてはならなかった。
マルコが屋上のドアにダイナマイトを仕掛けた。彼は爆発物についての知識と技術を総動員して、ドアとその向こうにいるであろう警備員は吹っ飛ばし、通路そのものは崩れないように慎重に場所を選んだ。彼は内心、手榴弾を装備リストに入れなかった事を悔やんでいた。しかしあの時点ではこんな派手な、まさに戦争と言える状態になろうとは思っても見なかったのだ。
ダイナマイトが爆発すると同時に、マルコは磁気ライフルを斉射しながら入り口に突っ込んでいった。
エアラフトは屋上から飛び出し、1階正面入り口へ降下を始めた。
屋上にはクルスが一人残って、キョロキョロしていた。
「あわわわ、置いてかないでくださいよー!」
意を決してまだ爆煙の収まらない屋上入り口に入ろうとするが、足が動かない。
「あわわわわわわ・・・・」
煙の奥から、マルコの怒鳴り声が聞こえた。
「クルス!なにしてる!ついてこい!」
「はい〜!!!」
クルスは目をつぶって煙の中へ突っ込んでいった。
運良く警備詰め所は入り口のすぐ横にあった。
鍵も手に入った。しかし使いようがない。
ジャニアスが詰め所の壁に黄色と黒の縞模様で縁取られた、鍵つきのケースがあるのに気がついた。
「うう・・・これはなにかのう。」
「それは多分災害時に囚人を逃がすための、レバーが・・・」
そこまで言ってアリスは、あわてて手に持った鍵束から合う鍵を探し始めた。
「こいつで一気に鍵が開くぞ!手伝ってくれ!」
「うう・・・」
その時詰め所の入り口あたりで、なにかが動いた。
ジャニアスは背を丸めたまま、オートピストルと顔だけそっちに向け、速射した。
アリスは飛び上がって両手を上げていた。
カービンを持った警備兵が倒れるのが見えた。
空になった弾倉を落とし、新たなカートリッジを差し込みながら、ジャニアスがつぶやいた。
「うう・・・びっくりした。」
「びっくりしたのはこっちだ!」
やがて鍵は合い、はたして大きなレバーが現れた。
まばらな反撃をものともせず、マルコは片端から部屋の鍵を壊して開けていった。
誰が入っていようとお構いなしで、出てきたところを確認した。いきなり部屋から出された囚人達は右往左往して、混乱を深めていった。いつの間にか銃を手に入れた者もいるらしく、覚えのないところで銃撃音が聞こえ始めた。
何度目かのチャレンジで、ドアを開けても出てこない囚人がいるのに気付いた。
部屋の中は真っ暗だったが、人がいるシルエットだけは、外の炎の明かりで浮かび上がっていた。
マルコはクルスを呼んで、カメラのライトで中を照らさせた。
ライトに浮かび上がったのは、少々くたびれてはいるが、ターゲットのセルジェイ・オベルリンズに間違いなかった。
「セルジェイだな。親父さんに頼まれて助けに来た。」
セルジェイは落ちついた態度で、腰掛けていた粗末なベッドから立ち上がった。
「何の騒ぎかと思えば、そういう事だったんですか。全く、おやじときたら、こうだと思ったら人の迷惑なんて、全然目に入らないんだから・・・」
「なんだか知らんが、さっさと出てきてくれ。急いでるんだ。」
「分かりました。」
そう言って部屋から出てきたセルジェイだったが、いきなりクルスが肩に掛けていたカービン銃をひったくった。
「わ!なにをするんですかー!?」
「悪いが、僕一人で助かるわけにはいかないんだ。」
そう言うと近くにあった階段を下へと走り出した。
「待て!」
思わずライフルを向けたマルコだが、もちろん撃つわけにはいかない。
舌打ちして後に続いた。
クルスもついて行こうとした時、まわり全部のドアが重々しい音を立てて開いた。アリスが警備員詰め所のレバーを倒したのだ。
そんなことは知らないクルスは、次々に出てくる囚人達に質問されたり、怒鳴られたり、なぜかもみくちゃになっていった。
「だからこんな仕事イヤだと言ったんですー!!!」
マルコはなんとかセルジェイに追いついた。
「待て!いったいどうする気だ!?ここの囚人全部脱走させる気か?」
「僕のせいで一緒に捕まってしまった女性がいるんです。助けないと!」
「待て!分かった!しかし何処にいるのか分かってるのか?!」
「建物と部屋は分かっています!だけどこれは僕の責任です。僕がやる!」
「それは困る!」
ちょうど階段を下りきったところで、通路から銃撃され、セルジェイの足が止まった。
マルコは有無を言わさず前に回り込むと、セルジェイに強烈な当て身をくらわせた。
当て身とは思えない重い音がして、セルジェイは意識を失った。
マルコはセルジェイを抱えると、反重力ベルトのスイッチを入れた。階段を上る。
一行は屋上で何とか合流した。
クルスはもみくちゃにされ、色々な物をはぎ取られていたが、カメラだけはしっかり握っていた。
他にも逃げ出した囚人が何人かいて、エアラフトに乗り込もうとする者もおり、危うく乗っ取られるところだったが、何とか上空に避難した。
意識を取り戻したセルジェイに、彼のせいで捕まってしまったという女性、カリン・ラムの居場所を聞いたマルコは、アリスが止めるのも聞かず助けに行ってしまった。
どうなることかと心配したが、マルコはあっさりとその女性を連れてきた。というか運んできた。また彼の当て身が炸裂したらしかった。
急いで高度を上げ、緊急連絡用のメーザー通信機の準備を始めた。
通信機の準備が整ったころ、カリン・ラムが目を覚ました。
手当していたジャニアスを押しのけて、セルジェイが近寄った。
「カリン!僕だ。セルジェイだ。もう大丈夫だよ。」
「セルジェイ・・・・ここは・・・」
「エアラフトの中だ。僕らはあの刑務所から脱出したんだよ!」
「まぁ・・・」
二人のやりとりを、4人はぼーっととした目で聞いていた。
4人は疲れ切っていた。なんか若いもんがよろこんどるわい、あーよかったよかった・・・といった感じだった。
しかし話はもつれ始めた。
「何?何だって。今なんて言った?!」
「帰ると言ったのよ。ルーに。故郷で生まれた国のネベルソーンへ。」
「君は今刑務所から脱走したんだぞ!それにネベルソーン政府は間違ってると言ってたじゃないか!?」
「確かに政府は間違ってる。でもあそこが私の祖国なのに間違いはないわ。帰る。戻して頂戴。」
「そんな!?」
セルジェイは困り果て、他の4人を見回した。
4人は泣きそうな顔をしていた。

ドンキホーテ商事の冒険 第5回 終了