ドンキホーテ商事の冒険
第6

帰還


帰る帰るとだだをこねるカリン・ラムをなだめる一行。
手を変え品を変え、説得を繰り返し、しまいにはファスト・ドラッグを飲ませようとか、縛り上げてしまおうなどの意見まで出てきた。
結局、今は危険回避のため一旦リジャイナへ向かうが、後でオベルリンズが責任を持って彼女をルーへ送り返すという(嘘八百)ことで、なんとか落ち着いた。
セルジェイはなんとも複雑な表情だったが、あとの4人はそんなことは知ったことではなく、ただただルーを出られるのが嬉しかった。

エアラフトを帰還コースに載せた頃、通信が入った。
すわ追手か!?と緊張が走ったが、それは軌道上のドノバン船長からだった。
最初の打ち合わせでは、ターゲットを確保したら、エアラフトからA型貿易船が待機している方位に向けてメーザー通信の連絡を送り、あとはランデブー地点で落ち合うという手筈になっていた。その手順はすでに済ませてある。
だが手筈通りだったら船の方から返信などあるはずはなかった。 船の所在、そして船とエアラフトの関係をはっきりとさせてしまう可能性が高く、危険すぎたのだ。
こういう仕事のプロの筈の船長が手筈を間違えるとは考えづらい。
アリスはいやな予感を覚えながら、受信スイッチを入れた。
すぐに船長の声が聞こえてきた。
前と変わらず冷静な声だったが、気のせいか少し早口になっているようだった。
「少々まずい事になった。一旦ルーへ降下して姿を隠し、6時間後に上がって来てくれ。あと能動探知は絶対に使うな。」
唖然とする一行。
まずい事とは何だ!?
慌てて受動探知機を操作するアリス。実は使い方はよく分からなかったのだが、すぐに予定に無い事象に気が付いた。
A型貿易船の待機予定ポイントには、確かにその船影があった。
だがそのすぐ近くに、貿易船をはるかに上回る巨大な船影があった。 表示の示すところによれば、その船は少なくとも5万排水素トン以上の容積があった。
この巨大さでは、下手な探知機操作で見つけられるのも道理である。
慌ててフロントウィンドウからその方向を見てみる。
遠目ではっきりとはしないが、長方形の船体が静止しているらしいのが見て取れた。この距離で確認できるということは、5万排水素トン以上の容積だということは間違いなさそうだ。
それにしてもこの船は何者?
不気味な船の存在に、一行が背筋に寒気を感じているところに、再び受信音が鳴り響いた。
しかも今度は通常の電波通信だった。
受動探知機の表示では、例の大型船からの通信らしい。
すでにこちらの所在もばれているのだ。
船長の指示はあるが、こうなっては受信スイッチを入れるしかなかった。

渋い壮年男性の声が流れだした。
「こちらは帝国偵察局、特務巡洋艦ヤマト艦長オキタ。貴船の任意同行を求める。ただちにコースを変更し、本艦とのランデブーコースをとりなさい。」

4人は踊りだした。


アザンティ・ハイ・ライトニング型の巡洋艦は、旧型とは言え海軍のれっきとした戦闘艦として建造された船で、その巨体に秘められた戦闘力は計り知れないものがあった。
偵察局に贈渡され、戦闘装備の大半は取り除かれていても、その戦力がA型貿易船など問題にもしないことは明らかだった。

などと考えるまでもなく、近寄るにつれあらわになるその威容に、圧倒されるばかりの4人だった。

ハッとアリスが正気に戻った。
こうしてはおれない。
自由に行動できるのはおそらく今のうちだけである。
彼は慌てて全員を呼び集めると、これから待っているであろう尋問に備えて、打ち合わせを始めた。
時間がなく、細かいことは決められなかったが、少なくとも話してはいけないことの確認と、自分たちが観光に来ているのだと申し合わせることは出来た。
もっともそれぞれ個別に専門の尋問官に話を聞かれては、こんな穴だらけの言い逃れが通用しないのは彼自身明らかだったが。


エアラフトはヤマトに収容された。
環境制御された船倉内で、4人とセルジェイとカリンがエアラフトを降りてみると、驚いたことにA型貿易船もすっぽりと船倉に入ってしまっていた。
貿易船のタラップからは、ドノバン船長を始め、トムとジェリーも、偵察局員に囲まれて降りてくるところだった。
エアラフトの面々にもそれぞれ偵察局員がついた。
局員達は手にカービン銃を持っていた。

震え上がっている4人の中でも、アリスは最も顔色が悪かった。
神経質にサングラスとヒゲ(付髭である)を直している。
元々彼は偵察局員だったが、借金を重ねて計画離婚を実施した際、行方不明になる必要があったので、偵察局も脱走した身だったのだ。
ここで正体が露見するのだけは避けなければならない。最悪の場合は進入禁止地帯への進入、刑務所襲撃の罪の上に、うやむやになっている筈の多額の借金まで抱えなおすことになるのだ。

ドノバン船長は船長帽を目深にかぶり、腕を組んで黙っていた。
またトムとジェリーは、お互い顔を合わせて肩をすくめたり、おどけたような雰囲気だったが、その目からはどんな感情も読み取れなかった。

セルジェイは、流石と言おうか変化がない。いまだカリンの事を気にしている風だった。
当のカリンは怒りのあまり爆発寸前といった感じで、その放射するオーラは偵察局員たちでさえ圧倒していた。

偵察局員たちを指揮しているのは、小柄な女性だった。
彼女は収容したメンバーが全員集められると、その前に立ち、言った。
「ヤマト副長のダヂロー・チャイムです。あなた方の航行経路その他に不明な点がありましたので、 帝国皇帝より与えられている権限により、臨検と取調べを行います。指示を守っていただければ、迅速に終了するでしょう。」
ヤマトの副長はあくまで礼儀正しく進めていたが、きっちりと偵察局の制服を着込み、きびきびとした動きと眉一つ動かさない意志の強そうな表情は、彼女がいざとなったら何事にも容赦はしないだろうと予想させた。

チャイム副長と数人の偵察局員に従って、広いヤマトの艦内を移動した一行は、10m×10mくらいの、部屋に案内された。
そこには中央にテーブルがあり、それをとりまくようにソファが置かれていた。
壁はシンプルで、端末の一つも設置されていない。
どうやら応接室風ではあるが、あくまで油断のならない外部の人間を待たせておく、または閉じ込めておくための部屋のようだった。

一行をソファに座らせると、チャイム自身は立ったまま話し始めた。
「これから皆さんを取り調べさせていただきます。 本来ならそれぞれ個別に話を聞くところなのですが、今回は特別に、本艦の艦長が皆さん全員からお話を伺います。」

今回は特別に、と言った時に、ほんの少し困ったような表情が彼女の顔に浮かんだのをアリスは見逃さなかった。
どうやら艦長は変わった人物らしい。これはチャンスかもしれない。

マルコはすでに腹を決めていた。
こうなったからにはジタバタしても仕方がない。やるだけやって、ダメなら暴れるのみ。

ジャニアスは考えていた。
ソファに客を座らせたからには、お茶とお菓子が出てくるであろう。
それはいったいいつになったら出てくるのかと。

クルスはただうつむいて震えていた。
彼の表情は見えなかったが、この世の終わりのような顔なのは確かだった。またブツブツつぶやいている内容が、「だからこんな仕事嫌だと言ったんですよぉ」なのも火を見るより明らかだった。


スライドドアが開き、壮年の男性が入ってきた。
一斉に局員たちが「気をつけ」の体勢をとったことも、彼自身の服装も、彼が艦長だと知らしめていた。
彼は古風で大きな艦長帽を目深にかぶり、白い髭で顔半分を覆っていた。
恰幅のいい身体に着込んだ、襟の大きな紺色のコートには、金の縁がついており、胸には大きく帝国偵察局のマークがついている。

何か勘違いしているのではないか、それがアリスの印象だった。

艦長は軽く右手を振って、周りの局員に楽な姿勢をとらせると、チャイムのひいたソファに収まった。
テーブルに両腕の肘をつき、 手を組み合わせると、ぐるりと一行を見渡し、大きく息をついてから、話し始めた。
その声は確かに通信機で流れてきた艦長の声だったが、生で聞くとより渋く、深みがあった。
「私が本艦の艦長、 オキタだ。」


離れてゆくヤマトの巨体を、A型貿易船の船窓から見つめながら、一行は安堵の溜息をついた。

オキタ艦長は確かに変わった男だった。
彼は一行の話を聞いているのかそうでないのか、よく分からなかった。
ただ妙に艦長としての威厳だけは強く印象に残った。
尋問と言うよりただ話をしているという雰囲気で、話題の誘導があるわけでもなく、細かいことを聞かれるでもなかった。
最後にオキタが「問題は無いようだな。」と言った時には、彼の背後に立っていたチャイム副長の顔が引きつっていた。

一行はまだ開放されたのが信じられなかったが、 それはオベルリンズの用意周到さと、ドノバン艦長の機転が利いていたのは明らかだった。
彼らが尋問(?)されている間に、船の方も調べられた筈だったが、問題のあるものは何も出てこなかった上に、エアラフトに積まれていた装備類も、なんとちゃんとした携帯許可証が用意されていたのだ。

ただしアリスは気になっていた。
話の中で、ジャニアスが(どういう精神構造でかは不明だが)「ダイナマイト・・・」とつぶやいたのだ。
後々響いてこないことを祈るばかりである。
もう一度船窓を振り返ると、ヤマトはまだルーの軌道上で静止していた。
今は自分の幸運を喜び、かつあの船と再会しないことを祈るばかりだった。


A型貿易船はどこでどうやったのか、既に燃料の補給も終わっているようだった。
いつの間にか海水のすくい取りでも行ったのか。
それとも大量に燃料を積めるように改造でもされていたのか。

ジャンプに入り、一行もやっと落ち着くことが出来た。
旅の友となったセルジェイから聞いたところでは、彼が捕まった直接の原因は、現地での警官への暴力行為だということだった。
それと言うのも現地で仲良くなったカリンが、反政府活動に関与している疑いで逮捕されそうになっているのを助けようとしたのが原因らしかった。
それにしてもそれだけの事でスパイ容疑までかぶさってくるとは、ネベルソーン政府は確かに話して何とかなる状態ではないようである。

カリンはうつむいて何も話そうとしなかった。
セルジェイが話し掛けてもろくに返事もしない。
ほっておくしかないかと思われたが、マルコだけは違った。
彼は機会あるごとに、いかにセルジェイが彼女のことを気に掛けていたか、またあの状況で彼のとった行動は自分の命も顧みない立派なものだったと話して聞かせていた。
ジャニアスはフンフンとうなずきながらそれを聞き、クルスはメモをとっていた。
アリスはといえば、そんなマルコの行動は肌に合わず、知らない振りを決め込んでいた。

マルコの説得の成果か、ジャンプの約1週間の間で、セルジェイとカリンの仲は少しずつ修復されていったらしく、いつの間にか船室も別々だったのが、同じ部屋を使うようになっていた。


リジャイナ星系にジャンプアウトした。

リジャイナ星系の星空は、どこが違うと言うわけでもないのに、一行にとってあたかも故郷の地であるかのように感じられた。
ガスジャイアント「アシニボイア」の陰から衛星リジャイナの姿が現れだした時に、感激は最高潮に達した。
ようやく帰ってきたのだ。

みんなが少しずつ大きくなるリジャイナに見とれている時、セルジェイは一人、さっそくメーザー通信を使ってどこかと連絡をとっているようだった。

船は地上宇宙港の13番着陸床に着陸した。
そこは管制タワーの影になって全体が薄暗く、メンテナンス、または誘導用のランプ類だけが目立っていた。
セルジェイは一行に、心から感謝していると告げ、お礼をしたいとも言った。
マルコが報酬はすでに話がついているからと言いかけたが、アリスがそれをさえぎった。
セルジェイは手を振って、迎えに来ていたリムジンエアラフトに乗り込んだ。
彼の横にはぴったりとカリンが寄り添い、 小さく手を振っていた。

二人を乗せたエアラフトが飛び立つと、着陸床にはボロいA型貿易船のタラップに立ち尽くす4人と、その後ろで腕を組んでいるドノバン船長が残った。
トムとジェリーは早くも次の航海の準備を始めているのだ。
船長がぼそりと言った。
「依頼主からのメッセージだ。6番着陸床に約束のブツがあるそうだ。」
まだ帰ってきたという実感がつかめず、少し呆然としている4人だったが、その声に振り返ってみると、彼はすでにきびすを返し、タラップを上りはじめていた。
マルコは慌てて何か言おうとしたが、 口から出たのは「どうも・・・ありがとう。」それだけだった。
船長は振り返りもせずに「偵察局の船に捕まったのは俺の責任だ。すまん。何処かで会っても他人の振りをしてくれ。」とだけ言って船内に消えた。
閉まってゆくアイリス・バルブを見つめていたマルコに、アリスの嬉しそうな声が届いた。
「なにをグズグズしてるんだ。行くぞ!」
目をパチクリさせるマルコ。
「行くって・・・・どこに行くんだ?」
アリスはすでに着陸床の出口に向かって歩き始めていた。代わりに答えたのはジャニアスだった。
「6番着陸床じゃろう。」
「約束のブツってなんでしたっけ?」と言ったのはクルス。
マルコもピンと来なかった。
確かに報酬は約束されていた筈だが・・・・・なんだったか。 そう言えば研究所にビデオと記録を渡さなければならない。そういう約束でこの仕事を斡旋してもらったのだ。
そんなことを考えつつ、あとについて歩くマルコだった。
6番着陸床は、ここ13番着陸床から見て、宇宙港管制タワーの反対側にあった。

6番着陸床入り口にたどり着いた。
アリスが踊るような手つきで操作パネルのボタンを押すと、扉が開いた。
恒星ルソールの光が差し込み、着陸床は白く輝いていた。思わず目を細めながらも、4人の目はその中央にある物に釘付けになった。
誇らしげに船体を輝かせたA2型自由貿易船が彼らを待っていた。





ドンキホーテ商事の冒険 第6回 終了

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